2012年7月29日

精神的敗因

単行本17巻のヒカル―村上二段戦行きたいと思います。消えてしまった佐為を自分の碁の中に見出したヒカルが、アキラへのライバル宣言をし、再び碁の道を歩んでいく決意を固めたあとの、復帰初戦ですね。


 黒 進藤ヒカル初段 白 村上信一二段 黒の中押し勝ち

元ネタの棋譜が明らかになってないので、アニメ見ながら作って見ました。手順に自信が持てなかったので、今まで出すのを控えてたんだけど、まあ大体合ってるだろうということで、今回記事にすることにしました。(多少の誤差はあるかもしれないけど。)
手順を想像するときのコツは、何故その石がそこにあるのか、どうすれば自然にそこに石を持ってこれるかを考えていくことですね。あとは先手後手を考慮して、どのワカレが先にくるかを考えていくことも大事ですね。

38手目の局面。「このまま地を囲うのは甘いかもしれない、反撃してやる」と、村上二段果敢に反撃に出ましたが、私はこの手が、この碁における村上二段の敗因の一つだと思いますね。

技術的なことで言えば、この手は下辺一帯の黒模様を意識しつつ、あわよくば左上の黒を攻めてやろうという積極的な手で悪手とまでは言えないのかもしれない。それどころか、この後の展開次第では好手の可能性だってある。
しかし精神的な意味で、この手を打つようでは、この進行を選ぶようでは、ヒカルに勝つのは難しいだろうと私は思うのです。というのは、この碁が始まったとき、村上二段はこう言ってますね。
「堅く打とう、地に辛い打ち方をしよう、ヨセまで持っていき確実に勝つ碁を打つんだ」
もし、その決意を貫くのであれば、当然この局面では、多少甘いと思っても、Aにしっかり受けて我慢すべきところだと思うからです。それこそが堅くカラい打ち方というものではないのか?積極的なのは悪いことではないけど、私には成算があって▲の手を打った手とも思えないので、村上二段のこの手からは、一種の力みや焦りといった、余裕の無さが見て取れるわけです。

そして、その後の進行を辿ってみると、黒1から上辺に踏み込まれて地を損した上、黒7以降の逆襲を食らっては、もうヨセに持ち込むどころの話じゃなくなってきてますね。しかも、アニメでは、ヒカルは黒13のボウシを打った時点で、「よし、いける!」と手ごたえを感じてるようなので、ハッキリ黒ペースになりつつあると思われます。

では、仮に、一番上の図の反撃に出た手で、上辺を受けていたらどうなったのか?
黒は2のボウシが普通だと思うけど、この全局的な黒模様をイメージしたときに、村上二段は形勢に自信が持てなかったんでしょうね。正直、これだけの模様を張られたら、どこから手をつけていいのか私には分かりません。右辺なのか、下辺なのか、それとも中央あたりから消していくのか。・・・だから、ただ地を囲うだけの1みたいな手は打てないという村上二段の気持ちは分からないでもない。
しかし、そうやって迷いが生じ、当初の計画が揺らいでしまった時点で、アキラにライバル宣言し迷いの吹っ切れたヒカルとは、精神面において大きな差があるといえますね。

終局図ですが、わずか67手で投了ということで早いですね(コミックスだともう少し打ってる感じなんだけど)。この白を攻められながら、右辺と下辺を固められたら勝てないという判断なんだろうけど、それにしても早すぎる。私は、むしろ形勢悪くなってからが碁だと思ってるので、こんなところで投げるなんて私には絶対に考えられません。

村上二段は対局前に「不戦勝で楽々昇段ってわけさ」と言ったり、形勢悪いからといってあっさり投げたりと、ちょっと「やる気あるんかい」と言いたくなりますね。この時点で両者の実力は、既にヒカルの方が上だろうけど、それでも勝負の世界では五輪のサッカーで日本がスペインに勝ったように番狂わせみたいなことは幾らでも起こりうるんだから、戦いの中での心構えというのは非常に重要になってくると思います。

やっぱり勝つためには、もっとがむしゃらに打たなくちゃいけないと思うし、ある程度自分のスタイルを貫くことも大事だと思いますね。そういった実力以前の問題を蔑ろにしているようでは、この碁において村上二段が勝つのは、ちょっと無理だったと思います。

2012/7/29初出

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